REAL



 翌日、由法が見た雫は全くもっていつも通りの雫であった。
 それ以降、自分にかまう時間が長くなったような気がする、とは由法の談。気のせいかもね、彼はその問題をそこで終わりにしていたが。
 その日、珍しく二人は一緒に帰路を進んでいた。だが、一方的に話す雫に由法が適当に相槌を打つ、という構図は相変わらずだった。
 ふと、由法は空を見上げた。
 そこに広がる青色はあの世界で見たものとほとんど変わらない。雲は流れ、陽が陰を作り出す。どちらが作り物なのか一瞬と惑うほどだ。
 と、由法の後頭部を軽い衝撃が襲った。
「あたっ」
「聞いてた?」
「……聞いてなかったけどさ。けど、殴ることないじゃないか」
「男が細かいこと気にするんじゃないの。もともとそっちに非があるんだから」
「いやまぁ、うん、それもそうだけど……」
「でしょ?」
 どこか納得がいかないながらも、由法は黙って歩いた。が、彼の考えはおおむね正しいといえる。これで納得いく方がおかしい。
 そのまま歩き続けること十分ほど。二人は『真菅』という表札のある家の前まで辿り着いた。
「じゃあね」
 そういって門をくぐる雫に、由法は黙って手を振った。
 玄関扉の前まで来たところで、雫が由法へと振り返る。そして、今もまだそこに佇む由法に、叫び声とも取れなくもないような元気の有り余る声で言った。
「今日も、道具屋の前ね!」
 彼女のその言葉に由法は、微笑を浮かべながら答えた。
「はいはい」
 雫が扉の向こうに消えたのを確認して、由法も再び歩き出した。


EXIT











  
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