REAL


 翌日。
「この恨みはらさでおくべきかー!」
「いてっ」
 殴られた後頭部をさすりながら、由法は暴行犯、真菅雫をジト目で睨み付けた。もっとも、睨み付けたところでまた睨み返されてそのまま引き下がるしかなかったのだが。
 彼の横を歩く雫は、まさにイラついていた。「私は今イライラしています。危険ですから近づかないでください」と看板を下げるよりもイラついているのが目に分かる。
 長い付き合いである以上、由法もそれを一瞬で見抜いていた。故に殴られても文句は言わない。言ったところで更なる追撃が入るからだ。
「ほんっと、アタマくるなぁ。ああいう馬鹿は! 勘弁してほしいよ!」
 などと、雫はひたすらに愚痴をこぼし続け、由法はずっとそれを聞かされていた。
 無論、ここで言う馬鹿が指し示すのは先日の熱血情熱騎士・ファルコンのことである。由法が去った後も、二人の追いかけっこは雫が由法のアドバイスを思い出す一時間後まで続き、そのしつこさと馬鹿さ加減に雫はブチ切れているのだった。
(だからって、僕に八つ当たりしないで欲しいよ)
 振り回される拳と鞄を巧みに避けながら由法は思う。だったら雫そのものから逃げればいいのだろうが、向こうからこちらにやってきてしまっては元も子もない。事実、今朝だって登校途中だった由法は後方から襲われたのだ。追突事故は避けられないのである。
 しかし彼の願いも空しく、授業が始まるまでその理不尽な暴力は続いたのだった。南無。


 時は流れ放課後。
 さすがにこれだけ経てば頭も冷えているだろう、という由法の楽観的予測は大きく外れ、雫の不機嫌さは影を潜めるどころかさらに存在感を増していた。
 原因は、授業終了後のホームルームにて返却された模擬試験の結果であった。
 彼女が不機嫌になっていることから分かるように、その結果がまぁ散々だったのである。
 それまでは順調に下降していた雫の怒りボルテージだったのだが、そこで傾き急転回、一気にチョモランマ山頂を目指しやがったのだった。
 そして今、彼女はその散々な結果に対する不平不満愚痴などなどを友人たちともらしあっている。これは問題が悪い、こんなところ授業でやってないよーなどと、口とは裏腹にどこか楽しそうなその集団を、帰り支度をしながら由法は眺めていた。
 ちなみに彼の結果は上の中といったところ。あまり本気で勉強しなかったのだから、この程度が妥当なラインかな、と由法は冷静に分析していた。喜びもしないし、別にやる気を出さなければならないほどの結果でもない。彼にとっては、これくらいがちょうど良かった。
 そのまま彼は教室を出た。誰一人として彼の動きに目を留めることはない。
 今日もまた本屋によって、帰宅した由法はいつも通りSOにログインした。







  
前へ戻る

次へ進む

小説トップへ

TOPへ