REAL


 扉が開かれた。
 その先より現れたのは、板垣由法という名の少年。この部屋の主である。
 この少年はどこかやる気なさげな目をしていた。耳が隠れる程度まで伸ばされた黒髪も、伸ばした、というよりも伸びたとしたほうが正しいだろう。
 由法は身に纏っていた詰襟を脱ぎ捨て、息苦しい制服から過ごしやすい部屋着に着替えると、間髪おかず机の上のデスクトップパソコンの電源を入れた。
 OSが起動している間に、彼はベッドの上に放り投げられた鞄の中から一冊の雑誌を取り出した。『オンライン・ゲーマーズ』という業界ではかなりメジャーな、オンラインゲームを専門に取り扱った本である。
 由法はその雑誌の、右端が折り返されたページを開いた。
『特集・SO最強ギルドの正体!』
 その見出しが躍る記事に目をやり、由法は口許を軽く緩めた。
 と、ちょうどその頃パソコンの起動作業も終わり、モニターに背景画と十数個のアイコンが表示される。オープンソースのインターネット・ブラウザ、文書作成用ソフト、メール、ファイル操作などのツールなどなど……その中から彼は『Seekers Online』という名のショートカット・ファイルをダブルクリックした。  シーカーズ・オンライン。
 世界初の家庭用バーチャル・リアリティを実装したMMORPGであり、世界中に驚異的なシェアを誇るこのゲームは総プレイヤー数が一千万に達するとも言われている。
 サーバーごとに世界観が設定されており、SF的な遠未来から、剣と魔法のファンタジー世界、ほぼ現実そのものな世界もある。
 由法もまた、このゲームのプレイヤーであった。
 全周囲モニターと脳波インターフェイスを兼ねたヘルメットを装着し、IDとパスワードを入力。一応このヘルメットは、視界確保のため目の部分だけは透明な特殊樹脂となっている。このおかげで装着状態でもキーボード操作は可能であったが、いかんせん、見た目がひどく間抜けになってしまうのであった。
 とまぁ、それは余談。
 慣れた手つきで入力した由法は、勢いそのままにエンターキーを押した。
 それと同時に、彼の視界もブラックアウト。目の前には接続中という青色の文字が浮かぶ。
 今日はちょっと込み合ってるな、と由法は思った。
 接続中などという文字を見たのは久しぶりであった。一応超光速回線が使われている由法の環境ではめったに見られないものであった。だが、下りが速くとも上り側の速度が遅くては何の意味もない。とてつもない負荷に耐えるためサーバー側も相当なスペックの機械と回線を用意しているはずだったが、それでもさすがに常時数万人のアクセスには耐えられないということか。
 それでも、程なくして彼の視界は明るくなっていった。








  
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