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Secret Base




 その日は、とても天気が良かった。
 俺はなぜか、近所の公園にいた。
 本当に狭い公園。設置されている遊具も、ブランコと滑り台にぐるぐる回るジャングルジムのようなものだけ。そういえば、昔は砂場もあった気がするのだが。いつの間にか姿を消していたらしい。
 小学生の頃はよく近所の友達と遊んだものだが、それも昔の話。ここ数年、どころか十年近く足を踏み入れていなかった。
 その入り口に、俺は今なぜか立っている。どうしてこんなところに来てしまったのか――いまいち思い出せない。まぁ、そんなことは些細なものだろう。
 近くを通るたびに思っていたのだが、改めて見てみるとその荒れ具合がよく分かる。伸びっぱなしの雑草、錆び付いた遊具、腐りかけた木製のフェンス。
 俺の記憶の中にあるそれらは、もっと綺麗で、大きかった気がする。
 いや、きっと俺が大きくなったんだろう。昔は小柄で通ってたからなぁ。
 よく遊んだ仲間たちの間でも、一、二を争う小ささだった。それが今では、仲間内でも一、二を争う長身だ。まぁ、十年もあればそれも当然か。
 一緒に遊んだあいつらは、元気にしているのだろうか。いつの間にか――気が付けば、バラバラになっていた。今はもう、どこで何をしているのか。連絡すらもしていない。
 ――そういえば。と、ふと思い出した。
 あの時作った秘密基地は、どうなってしまったのだろうか。
 公園の裏、崖の上のちょっとした平地を使った、それこそ猫の額のような広場。
 その隅の竹林の中に、基地はあったはずだ。
 基地といっても、何かを持ち込むわけでもなく、何か特別なことをするわけでもなく、ただ遊びの拠点として、その小さな空間を利用していただけだった。
 けれどもそれは、あの頃の俺たちにはとても特別な場所に思えていた。
 仲間だけしか入ることの出来ない、秘密の場所。いつも薄暗くて、じめじめしていて、一歩足を踏み外せば坂を転げ落ちてしまいそうな場所にあったけれど。
 それでもやっぱり、そこは俺たちだけの「秘密基地」だった。
 それが、十年も前の話。
 逆を言えば、あの頃の俺から十年も経った、所謂大人になった自分がここにいる。
 果たして今の俺は、あの頃に思い描いていた未来に立っているのだろうか。
 その疑問にも、もはや答えることはできない。
 思い出されるのは、あの懐かしい景色と、あたたかな草と土の匂い。
 けれども。
 秘密基地は、なかった。
 ただ単に雑草が伸びすぎたのか。それとも地形そのものが変わってしまったのか。
 まさに跡形もなく、なくなっていた。実際俺も、そこが本当に秘密基地のあった場所なのかと信じられないくらいだ。
でも確かに、この大木の枝に引っ掛けられた、手作りのブランコには見覚えがある。
そこはやっぱり、俺たちの秘密基地だった。
 そう、過去形。
 本当に、あっさりと。俺はその事実を受け止めていた。ショックも何も感じていないといえば嘘になるが、だからといって大きな衝撃を受けたわけでもない。ただ、自分でも不思議なくらい冷静だった。
 あの頃見ていたものが、また一つ減っただけ。
 無限の大海原だった広場も、今は狭い雑草地帯。
 どこまでも続いているような気がした大きな道路も、今はただの国道。
 いくら手を伸ばしても届かなかった青空にも、人は辿り着けることを知っている。
 当然だと思っていた綺麗な明日は、決して自分の思う通りにはならない。
 ただ、それだけのことだというのに。
 胸にぽっかりと開いた穴は、どうしてこんなに痛いのだろうか。


 秘密基地は、なくなってしまった。


EXIT





  
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