雨、降って


 君を好きになれるかどうか分からない、と答えたら、それでも構いません、と彼女は答えた。
 何度考えても、不思議なことだと思う。
 突然呼び出されたと思ったら、突然交際を申し込まれて。
 僕の返答は、承諾とも拒絶とも取れるものだったけれど、彼女はどうやらポジティブの意で取ったらしい。
 そもそも女の子、しかもそれほど親しくもない後輩からいきなり「私と付き合ってください」などと言われるなんて無論で想定外だった僕は、こうしてアルバイトにも集中できずにいるわけである。
「河原くーん、レジレジ!」
 そうして今日も店長の一声で我に帰る。カウンターの向こうには、赤のボールペンと漫画雑誌を手にした中学生と思しき女の子。僕はあわてて営業スマイルを貼り付けた。
 自宅近くの小さな書店で、時給七百円のアルバイトを始めて早半年。それなりに作業にも慣れ、既にレジ周りは僕の独壇場となっている。っていうかもうそんなに経つのか。早いなぁ。
 そういえば、この雑誌ももう八月号だし。最初に接客したお客さんが、これの二月号を買っていったんだよな。やたら目のでかい女の子と、中性的な顔立ちの(たぶん)男が微笑んでいる奇妙な表紙は、半年経っても変わらない。恐らくこの二人がてんやわんやの恋愛模様を繰り広げる内容も変わらないだろう。これは予測だけど。
 夏目漱石が印刷された札を受け取り、硬貨をたくさんとレシートを返却する。釣り銭を財布に、買い物を鞄に突っ込んだ女の子は、そそくさと店の外へと出て行った。
 何気なく目で追ってみれば、なんてことはない。外で彼氏らしき少年が待っていた。
 少し何かを言い合った後、二人は笑い合って、視界から消えた。
 そして僕は、ありがとうございましたの掛け声を忘れたことに、今更になって気がついた。


 今日もいい天気だなー、などとただ青空を眺めていただけの僕は、傍から見ると深い悩みを抱えた高校生にでも映るのだろうか。
 悩みがないといえば嘘になる。眺めながらも、心の隅で彼女のことを考えていたのは、否定しようのない事実だ。
 でも、本気を出して考えるには、あまりに情報量が少ない。
 僕が彼女について知っていることといえば、楠木幸(くすのきさち)という名前と、一つ年下の二年生で、昨年同じ図書委員として一年間働いた、それくらいなもんだ。
 あの日から毎日のように会って、話しているはずなのに、これだけしか知らない。彼女が向けてくれている好意に、僕は何一つ返せていないのではないか。
「うわ……最低だな、僕」
「何が最低なんだ?」
 高いとも低いとも取れないような微妙な声。散々聞き覚えのある声の主は、僕の背後にいた。
「……音もなく近づくなよ。心臓に悪い」
「俺はさっきからここにいたぞ。お前が気付かなかっただけだっての」
 不満たらたらの顔で僕を見下ろす阿部に気付かないくらい、僕の魂はぶっ飛んでたってことか。
「で、河原のどこら辺が最低だって? クールぶってる割に全然クールになりきれてないところとか? あ、それともあれか。最近可愛い彼女が出来てもう誰かにのろけ話したくて仕方がないとか?」
「両方ハズレ。次にハズしたら罰金で」
「マジで? じゃあ本気で考えないとな……」
 そして本当に腕を組んでうーんうーんと唸り始めた友人は、悩みを打ち明けるに値する人物だろうか。こんな何気ない掛け合いの中でも、そんな打算的な考えをしてしまう自分が、ちょっとだけ嫌だった。
 しかし実際、打ち明けてみるのもいいかもしれない。少なくともこいつは、色恋沙汰に関しては僕よりも経験値を積んでいるだろうし、口もそれなりに堅いだろう。何より、話せば楽になるかもしれない、というありきたりだけれども信憑性のない常識に、まさにすがるような思いだった。
 一旦視線を窓の外へと向ける。梅雨明け宣言してもいいんじゃないかと誰もが思う青空。吹き込む風は生ぬるく、だけれど必死に綿雲を運んでいた。
 そして僕は、恥を忍んで話した。あの日からのことを、かいつまんで。
 阿部は時より頷きながら、しかし真剣に僕の話に耳を傾けていた。
 そして開口一番の言葉が。
「確かにそりゃ最低だな。全てにおいて最低だ。彼氏を名乗る資格すらない。幸ちゃん俺によこせ」
「……はっきりとした意見をありがとう」
 見事なまでに言い切られた。だが、下手に擁護されるよりはずっとマシだとも思う。
 最低であるならば、これ以上下がることもない。そう考えれば、楽といえば楽だった。
 阿部は隣の空席にどっかと腰を下ろし、僕に人差し指を突きつけた。
「まず一つ。告られたときの返事がおかしい。何だよ、好きになれるかどうか分からないって。カッコつけんな、ボケ」
「そんなつもりは全くもってない。思ったことをそのまま言っただけだって」
「そこは嘘とか冗談を上手く交えつつだな……」
「僕がそういう類のもん苦手なの知ってるだろ。どんな嘘だろうと、嘘である以上いつかは相手を傷つけるんだ。そんなの僕は御免だね」
「こんなときに限って正論持ち出してきやがって……けどな、彼女、もう十分に傷ついてると思うぞ。俺の勘が正しければ」
「楠木さんが? そんなバカなことがあるか。これでも、他人の気分を害するような真似をしないことだけは得意なんだ。ありえない」
「それはどうかな。無知は無知であるってことだけで――」
「河原くん」
 阿部の言葉は、見事なまでに途中で遮られた。こいつの言葉を遮るとは、中々のつわものとお見受けいたす。というのは冗談で、いたって普通の女子高生なクラスメイトは、教室の入り口を指差した。
「可愛いお客さん。あまり待たせちゃダメだよ?」
「ああ、ありがとう」
 危うく忘れるところだったけれども、今は紛うことなき昼休み。教室に残る面々で、栄養補給をしていないのは僕と阿部くらいなものだった。今教室にいない奴らは、購買か学食にでも行っているのだろう。
「じゃあな……どうにか、できる限りのことはやってみる」
 どこか不満げな顔の阿部に背を向け、僕は彼女の元へと向かった。


「先輩って、茄子、嫌いなんですか?」
 幸か不幸か、今日は二人とも学食な気分だったため、大した議論もなく学生が溢れかえる戦場での昼食と決定した。とりあえず僕は弁当持ってくるということをしないので、購買部の惣菜パン三個+野菜ジュースか、今日のように学食に行くか、という選択をしていた。自慢じゃないが、我が一族は破滅的に朝に弱いという宿命を背負って生まれてくるのだ。故に、生まれてこの方、昼食に母親の手作り弁当など食ったことがない。
 そうして人の波を縫ってどうにか手に入れたAランチの夏野菜カレーを手に持ち、上手く二人分空いた席を探し出して、さらに一つ間違えば見失ってしまいそうな楠木さんを誘導、そうしてやっとありついた昼食も半分ほどを詰め込んだ矢先の質問だった。
「好きか嫌いか、と言われれば嫌いなのかもしれない。自分から進んで食べたいとは思わないし。でも、どうして?」
「いえ、なんかさっきから茄子を避けてるみたいだったので。もしかしたらそうなのかなー、と」
 確かに残りのカレーを見れば、その中に含まれる茄子の割合は高いかもしれない。別に食べられないほど嫌いってわけではないけれど、無意識のうちに避けていたのだろうか。
「先輩も、意外と子供っぽいところあるんですね」
「そりゃ、法律上はまだ子供なわけだし」
「あはは、そういう返し方をされるとは思いませんでした」
 楠木さんは笑って、自分の食事を再開した。時折、落ちてくる髪の毛を払う仕草をちょっと可愛らしいなんて思ったりもしてしまった。うん、まだ僕にも正常な感情が残ってるな。
 そして黙々と食べ続けること数分。目の前の皿はすっかり空となり(もちろん茄子も平らげた)、僕は食器を返却すべく立ち上がった。それにちょっと遅れて、楠木さんも立ち上がる。
 昼休みも半分以上過ぎたというのに、人の流れは途切れることを知らない。この学校の全校生徒数は九百人強。七割近くが弁当持参だとしても、残りの三割を購買と学食で山分けしたならば、二百人以上が学食を利用していることとなる。さらに単なる利用者に加え、学食で弁当やパンを食べるといった不届き者も含めれば、学食に来る人間はさらに数を増すだろう。
 そんな中で再び楠木さんを見失うことのないよう索敵網を張り巡らしながら、僕はどうにか学食外の廊下まで撤退することに成功した。
「やっぱり、お昼はすごい混んでますね。明日からはなるべくお弁当作ってくるようにします」
「流石に僕はもう慣れたけど。……うん、でもやっぱり、昼飯くらいは落ち着いて食べたいな。僕も何か、家から持ってくるか……」
「いえ、あの、先輩の分も私が作ってきますから、心配しないでください」
 それは願ってもない申し入れだ。無条件で首を縦に振りたい気分でもある。
 でも、彼女の負担になるようなことをさせるというのも、どこか忍びない。
「いや、それは流石に悪いって。自分の昼飯の面倒くらい自分で見るよ」
「わ、悪くなんてありません。むしろ私が作りたいというか……」
「んー……でも、僕の分も作るってことは、単純計算でいつもの倍作るってことだろ? そしたら、やっぱり労力も二倍、材料費も二倍だし。それを考えると――」
「いえ、あの、食べたくないなら、嫌だって言ってくれれば……」
「あ……ごめん。でもそれだけはない。ありえない。断言する」
 楠木さんの伏せられた目を見れば、こう答えるしかないし、嘘を吐いているわけでもない。
 事実、何度か見た彼女の弁当は、多少簡素な印象は受けたものの、シンプルゆえの完成度とでも言おうか、そのようなものを感じさせる、到底素人の仕事は思えないものだった。それを無償で与えてくれるというのであれば、迷う必要などないはずだ。この際、楠木母の作品かもしれないという可能性は橋の上から投げ落とすこととする。
「……うん、分かった。じゃあ、お願いするよ、楠木さん」
「はい! が、がんばります!」
 まだ、こんなことを頼んでしまってあつかましいのではないかという不安はあったけれども。
 嬉しそうな彼女の顔を見て、僕はとりあえずの安堵を覚えた。


「死ね。二、三遍死ね。幸福を抱いて溺死しろ」
「他人のバイト先にまで乗り込んできてそれか。冷やかしなら帰れ」
「冷やかしじゃないぞー。今日は週刊少年跳躍の発売日だからな、立ち読みしに来た。そしたら偶然そこに幸せ者の河原君がいたから、ちょいと愚痴をたれてるだけだ」
 それは十分営業妨害だぞ、と言ってやってもいいのだが、幸か不幸か現在店内の客は目の前でカウンターにひじを突いて僕と雑談している阿部のみ。店長も別にそこまで厳しく注意するつもりはないらしく、店の奥の、もう一つのカウンター席に腰掛けて新聞を読んでいる。果たしてそれが客商売としていいのかどうかははなはだ疑問の残るところだが。
「……でも、本当によかったのかね。楠木さん、本当は面倒くさいとか思ってるんじゃないのか? そうだとしたら、嫌々やらせるわけにもいかないし……」
「お前の脳味噌はスポンジか? ア○リカ産牛肉大量摂取してんのか? マジでそう思ってるんなら、お前はバカだ。阿呆だ。頓珍漢の朴念仁だ。三途の川下りして来い」
「酷い言い様だな。そこまで僕に落ち度があると?」
「ある。大いにある。もう少しあの子の気持ちを考えろ。好きな奴に好かれるために何かしようとするのは至極当然。だってのに、それを断る。だからお前はアホなのだ」
 某師匠的台詞で貶された。
「お前だって、幸ちゃんに好かれたいから、この俺のところまで相談に来たんだろ?」
 ちょっと待て、とその台詞を制す。相談に行った覚えはない。丁度そこに阿部がいたから、たまたま話してみただけだ。わざわざ出向く必要があるなら相談なんてしない。
 それに。
「僕は別に、楠木さんに好かれたいわけじゃない。ただ、嫌な思いをさせたくないだけだ」
「だから、それは好かれたいってことの裏返しだろ? 違うのか?」
「好かれたいと嫌われたくないじゃ大いに違うだろ。……第一、好きってどういうことだよ」
 その、本当に何気なく言ったはずの一言。
 ただ締めが甘かった蛇口から漏れた水のようなその言葉に対し阿部が見せた表情は、そう、まさに唖然といった具合だった。お前何言ってんの? って感じで。
「河原、お前、何歳だ?」
「大抵年上に見られるけど、一応十七。あと二ヶ月で十八になる」
「じゃあ精神年齢だ。そういう疑問はな、大抵思春期はじめのクソガキどもがうじうじと悩むもんだ。それをなんだ。もうすぐ大腕振って結婚できる歳の青年が、『好きってなんですか?』だと? ふざけるのも大概にしろ! それとも今はそんな初な少年が流行りなのかぁぁぁ!?」
「分かった、分かったから黙れ。ここで騒ぐな」
 大仰なポーズで天を仰ぐ阿部を黙らせるのはなかなかの苦行だった。というか、これが見知らぬ人間だったら関わろうともしなかっただろう。現に関わりたくない。
 そして仕舞いには、
「もう知らねぇ、後は勝手にしろ!」
 そう僕に叩きつけ、こんな生活もう嫌だぁぁぁなどと近所迷惑なボリュームで叫びながら去っていった。
 ……脳に寄生虫でも湧いたのだろうか?


 翌日、楠木さんは本当に弁当を作ってきてくれた。
 しかし、あいにく昼休みの教室の中で彼女とその手作り弁当を広げられるような度胸は持ち合わせていなかった。一番文句を言ってきそうな阿部こそ欠席だったものの、一部男子の怨念と、一部女子の羨望と冷やかしを浴びながら、僕たちは昼食を取れる環境かつ人口密度の低い場所――校舎北端のベランダへと移動した。
 手渡された弁当箱は、小奇麗な水色のナプキンで包まれていて、情けないながらも僕は、それだけで期待を抱かずにはいられなかった。中身はどうなのだろう? 一応無表情を保つ努力はしていたけれど、内心はガチャガチャのカプセルを開ける子供のような気持ちだった。
「あの、一応味見はしたんですけど、あまり期待はしないでくださいね?」
 そうは言われても、期待など既に十二分に抱いている。どうしようもない。
 そしてやはり、僕の期待が裏切られることはなかった。
 二段重ねの弁当箱の中は、上段が各種おかず、下段が日の丸ご飯となっている。アスパラのベーコン巻を主菜とし、大豆とひじきの煮物や春雨サラダといったおかずは、どちらかといえば野菜中心のメニューであるものの、それ故に栄養バランスの取れているのが見て取れた。どこで手に入れたのかは知らないが、隅っこにちょこんと乗っかっているイチゴもどこか可愛らしい。
「……本当に、こんな豪華な弁当、もらってもいいの?」
 楠木さんはゆっくり頷く。不安と期待の入り混じった、本当にそんな目で僕の一挙手一投足を見ている。早く食べて欲しい、けれどおいしくなかったらどうしよう――そんな声が聞こえてきそうだった。
 でも、そんなのは杞憂に終わることが決定している。例えこの弁当の味が見た目に反比例していようとも、不味いと言うつもりはない。おいしいと、よければまた作ってきてくれと、そう言おうと心に決めている。
「それじゃ、いただきます」
 軽く手を合わせ、箸を手に取る。そして迷うことなくベーコン巻を掴み、そのままかぶりついた。塩コショウの味が一瞬したかと思うと、次の瞬間にはアスパラの水分が流れ込んでくる。そのバランスがなんともいえない、ありていに言えばおいしかった。僕好みの味付けだ。
「おいしい。すごく」
「あの、お世辞ならいいですから……」
「嘘とか冗談の類は嫌いなんだ、僕」
 そのまま、僕の箸は止まらなかった。否、止められなかった。
 そんな僕の様子に安堵したのか、楠木さんも自分の弁当を紐解く。そこには、全く同じメニューがつまっていた。そして箸を進めながら、時々僕のほうを見ては、その大きな二重の瞳を細めていた。
 ――なんと言うか、穏やかな時間だった。
 空になった弁当箱を包みなおし、壁に寄りかかって空を眺める。
 食べることが楽しい、と感じたのはどれくらい振りのことだろうか。
「楠木さんって、よく料理とかするの?」
 僕と同じ格好で、食後のまったり感を味わっている楠木さんに投げかける。
「結構。週に二回くらい、私が晩御飯作ってますし」
「マジすか……すごいね」
「いえ、そんな……」
 照れ隠しか、彼女は笑う。
 そんな一つ一つの動作に、僕は和んだ。このままずっと彼女を見ているのもいいなと、そう思ってもいた。
 でも、だからこそ思い出す。
 僕は、最低の彼氏なんじゃないのかと。
 見ているだけで、何も返すことの出来ないやつなのではないかと。
 僕が何も出来ないから、彼女は傷ついているのか?
 ならば、どうして彼女は僕に好意を向けるのだろう。何の見返りもないというのに。
「あのさ、楠木さん」
「はい、何ですか?」
 極力、彼女を刺激しないよう、傷つけないように、僕は言った。
「どうして、僕なんだ?」
 生ぬるい風が吹き抜ける。体中から汗が吹き出た。
 しかし、そんな僕の緊張など他所に、ちょっとだけ考えるそぶりを見せて、楠木さんは微笑を携えながら言った。
「先輩は、私を裏切らないからです」


 かつて、これほど理解に苦しむ事柄があっただろうか。
 僕は楠木さんを裏切らないから、楠木さんは僕が好き?
 解析不能もいいところだ。確かに、僕は意図して他人を裏切ることなどしない。これだけは言い切れる。そういう性分なのだ。そりゃ、僕の関与しないところで裏切りを感じる奴もいるかもしれないが、そこまでは面倒見切れない。
 だが、果たしてそれが理由になるのか?
 実はその裏の裏の裏の地下三百メートルくらいの意味で、ただ優しいと言いたかったのだろうか? 悲しいが、それも却下。僕は優しくなんかない。
 分からない、分からない、分からない……
 寝転がって天井を眺めても、答えがぼんやりと浮かび上がったりはしない。ただ、電灯に引かれて迷い込んだ羽虫のうざったさに気付いただけだった。
 ここでもネックになるのは、情報の欠乏。ああ言うからには、彼女の過去に何か原因があるのかもしれない。誰かにひどく裏切られたことがあるとか、彼女自身ではなく、身近な人がひどい裏切りをされたとか。
 だが、いくら考えようとも、それらが推測や想像の域を超えることはない。
 ……やはり、この解を求めるには、彼女のことを知るしかないのだろうか。
 しかし、そうやって踏み込むことで、彼女に不快な思いをさせたりすることはないのだろうか? ない、と言い切れる証拠も保障もない。
 こういう場合、僕自身の感覚というのは全くあてにならない。どれだけ踏み込まれようとも、不快感を覚えることのない自分では。
 消えることのない不安を抱いたまま、僕の意識は深いまどろみの中へ落ちていった。






次へ進む

小説トップへ

TOPへ