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 こうなることは、最初から分かりきっていた。予知能力とかそのようなものなどを使わずしても、予測することは実に容易い。
 へべれけを通り越し、千鳥足にすらならない柴田を僕とミックで両脇から支えながら、夜の繁華街を歩く。柴田の足は一応地面についてはいるので、そこまでの重量を感じることはないものの、それはつまり僕と柴田の身長差がほとんどないということと同義だったので、なんだか複雑に気分になっていたのは内緒だ。
 あれから数時間。僕らははしごにはしごを重ね、すでに五軒もの飲み屋を制覇していた。いや、制覇したのはほぼ柴田一人の力だが。故に僕はまだ素面だ。確かに酎ハイや生ビールを少々嗜んだりはしたが、それくらいで酔うほど弱弱しい肝臓はしていない。
 無論、言うまでもないが、ミックも素面である。彼に至っては、酔う方法すらないのだが。生理油にアルコールを混ぜたらロボットでも酔うのだろうか? 今度試してみるかな。
『博士、なぜ人はこのように薬物摂取による快楽を求めるのですか? 私には理解できません』
「また難しい質問だね。ストレス発散とか、人によっては酒は薬になるとか主張するみたいだけど。まぁ、こいつに限って言えばただ単に酒が好きなだけだろうね」
「こらー、両脇でむつかしーこといってんじゃねーよ。もっと気楽にいこうぜー」
 完っ全に出来上がってしまっている。ここまで見事な酔っ払い、そうはお目にかかれないだろう。
 確かに周囲を見回せば、僕らのような状況もそう珍しくはない。ただ、大半の酔っ払いは一人放置されていたが。そういう危険人物と肩をぶつけそうになりながらも、この街道を抜けるべく歩を進める。これ以上付き合わされてたまるか。さっさと帰って寝たい。今度こそは誰にも邪魔させずに、ゆっくりと気の済むまで惰眠をむさぼってやる。
「よっしゃ、次はあそこいくぞー!」
「やだ。僕は帰ります」
 当然即答。
「なんだよ、友達がいのねーやつだなー。いいだろー、これ最後にするからよー」
 そう言うと、まるで散歩を嫌がる犬のように、柴田はその場に足を突っ張った。その肩にかけていた僕の左腕が引っ張られる。ミックも通常ありえない抵抗を感じてか立ち止まる。
 柴田の目を見れば、酔っ払い虚ろになった中にもどこか真剣っぽいような光があって、ああ、これはもう無理だな。と、僕は悟った。まぁ、もともと僕と柴田が力勝負したところで結果は見えている。ミックはロボットである以上人に手出しできないだろうし。
 如何にして対処すべきか。
 人々の好奇と哀れみの視線に耐えながら、腕組みをして考える。玩具売り場で駄々をこねる子供を静めるのと同じ理屈だろう。だが残念なことに、僕にはまだそんな経験はない。故に、適切な対処方法は思いつかない。柴田の要望通りにするか、それとも引きずってでも無理やり持って帰るか。ミックに手伝ってもらえばそうそう難しいことでもないだろう。
 よし、運搬決定。まったく、どうしてこう世話かけるかな……
「ミック、これ運ぶから手伝って――」
『後方、危険です』
「え?」
 後ろ? 振り返った瞬間、というか振り返ったのがまずかった。僕はふらふらと歩いてきた酔っ払いの若者と鼻っ柱をぶつけ合うこととなった。正直、痛い。その場にうずくまりたいくらいだ。骨は大丈夫だよな?
 鼻の下をこすり、鼻血は出ていないのを確認。痛いけど、まぁ痛いだけだから大丈夫だろう。
「すいません、大丈夫――」
「おんめぇ、どご見で歩いでんだよ!?」
 いや、僕は歩いていません。歩いていたのはあなただけです。
 田舎の訛り丸出しに怒鳴る若者にそんな冷静なツッコミを入れたくなる。しかしどうしてこう、僕は変な酔っ払いに恵まれるかな?
 しかも、不運なことにその若者は一人ではなかった。類は友を呼ぶ、とはよく言うものだけれど、似たようなハイテンションの若造が他にも五人ほど、連れ立っている。
 とりあえず適当な謝罪だけ済ませてこの場を離れよう。
 しかし、彼らはそれを許してはくれない。というか、聞く耳持たず。耳も理性もない。
 わけの分からぬ言葉でまくし立てる彼らに、僕は苛立ちを隠しきれなかった。邪魔、迷惑、駄目人間。そんなどす黒い感情が抑えられなくなって、ついに口から出てしまった。
「……うるさいんだよ、低俗共」
「んだとぉ?」
 やってしまった。言いたいこと言ってしまえば人間やはりすっきりするもので、僕は冷静を取り戻せたけれども逆にそれが激しい後悔をもたらすこととなった。ああ、やってしまった。
「てめぇ、なんつったんだよ!?」
 赤い顔の、最初に僕とぶつかった若者がガンをつけながら詰め寄ってくる。ああ、なんか嫌な雰囲気だな、これは。昔味わったことがあるぞ。あの時も口を滑らせて、相手を余計怒らせて――
「おらぁっ!」
 そう、今みたいに殴られたんだ。
 記憶を掘り返すのに夢中で、歯を食いしばれなかった。口の中に鉄の味が広がっていく。
 若造たちはそれを肴に盛り上がり、やれやれ、とさらにまくし立てていた。殴った若者もやる気満々で、ボクサーのようなファイティングポーズを取っている。
 どうするかな……生憎、僕は喧嘩なんかからっきしだし。これでも貧弱で有名だったんだ、子供のころ。昔は誰か止めてくれるような人がいたけれども……
 と、僕と若者の間に、一つの影が割り込んだ。
「ミック……?」
「あんだよ機械野郎。やろうってのか?」
 その特殊合金製の体を持つ友は、ただそこに立ち、若者と睨み合っていた。そこに言葉はない。一瞬ミックが仕返しでもするのではないかと不安になるが、いや、そんなことはない。彼がロボットである以上、三原則に縛られて――
 ちょっと待て。三原則だと?
 ミックはロボットの頭脳となるべくして作られたわけではない。僕もそのつもりで作った。
 さっき僕が殴られたときも、彼はただ傍観しているだけだった。
 三原則の一つ――ロボットは人間に危険が降りかかるのを見過ごしてはならない。
 彼は、これを無視した。
 つまり、どういうことか?
 ミックには、ロボット三原則が存在しない
 すなわち――
『貴方は、理由もなく暴力を振るった。これは許されることではありません』
「んがっ!?」
『自業自得です』
 僕は、過ちを犯した。
 腕を振りぬいた格好で制止しているミックと、殴り飛ばされ気を失った酔っ払いの若者。そして、騒然とする周囲。
 やってはならないことを、僕はしてしまった。







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